戸栗美術館で今月29日まで開催されている、「古伊万里から見る江戸の食展」へ行ってきました。
伊万里焼がどのように使用されてきたか、江戸時代の食文化との関わりを紹介するというもの。ポスターを見た瞬間からワクワクとして、着眼点が面白い!絶対に行きたい!と思っていた展覧会でした。
渋谷駅から歩いて15分。賑やかな渋谷駅から少し歩くと、閑静な邸宅街が広がっています。渋谷にこんなに静かなところがあるのだな、と知らない世界の扉を開けた気分でした。
現れた、栗色のタイルの美術館。
戸栗美術館
創設者・戸栗亨が長年に渡り蒐集した陶磁器を中心とする美術品を永久的に保存し、広く公開することを目的として、1987年11月に鍋島家屋敷跡にあたる渋谷区松濤の地に開館。コレクションは伊万里、鍋島などの肥前磁器および中国・朝鮮などの東洋陶磁を主体として約7000点を所蔵。 (戸栗美術館HPより抜粋)
扉の把手も焼き物になっているようで、繊細で鮮やかな絵付けにうっとり。美術館に入る前からワクワクとしてしまいます。
荷物を預けるロッカーも完備されていて、お金を入れても戻ってくる良心さなので身軽に歩きましょう。
展示室は2階にあります。まるで舞踏会の主人公になったような優雅な階段を上がって行くと、有田焼の作り方が描かれている大皿「染付有田皿山職人尽絵図皿」が展示されていました。
これがとても興味深く、石を砕いたり、ろくろを回したり、窯で焼いていたりと作業ごとにぐるりと描かれている職人さんたちが可愛らしい。お皿に作り方を残しておくだなんて面白い発想だな。と見入ってしまいました。
展示は碗や猪口、大皿など器の種類ごとに江戸時代の文献を辿りながら使用例や食文化を紹介しています。浮世絵は歴史を知る貴重な資料だなと改めて感じました。
中でも、赤と白の白玉が水を張った青い染付の鉢に入っている浮世絵が印象的でした。浮世絵では大人数の時は水を張った大鉢、一人の時は膾鉢に盛り付けて描かれているそう。白玉は夏に冷水に入れられ、人々に涼を届けていたそうです。白だけではなく食紅を加えた斑のものもあったそう。
大鉢ではないですが、実際に赤と白の白玉を作って冷水の中へ入れてみました。(ごめんなさい、白玉が斑でもなかったです。)
赤と白の白玉が、お祭りの金魚を連想させて夏を感じます。白い磁器へ入れると涼やかで、なかなか良いです。小鉢に移してシロップをかけて頂きました。江戸時代の人々は見た目からも涼やかにして暑い夏を楽しんでいたのでしょうか。器は辿っていくとその時代の人々の生活や歴史背景に繋がるのでやはり面白いです。
今回初めてこちらの美術館を訪れたのですが、展示品の前にしっかりとした肘をつけるくらいの手摺りが付いていて、とても良いなと思いました。何の支えもなく立って鑑賞するの、時間が経つと疲れてしまうのですが、支えがあると心強いです。手摺りに身を預けてゆっくりと楽しむことができました。
そして、美術館へ入った瞬間に広がるラウンジと緑が美しい庭。風に揺れる木々を椅子に座ってゆったりと眺める時間が鑑賞後の心身を癒してくれました。
江戸時代に作られた器が、今こうして鑑賞することができている。この器を大切に想う人が大切にし、また次の人が大切にしてきた歴史なのだなと感じました。ふと戸栗美術館のHPを見ていると、創設者の戸栗亨さんの言葉の中にこんなものがありました。
「失われていくものを大切に保存しなければ、将来の子供達は昔の文化や生活様式を知らなくなる」
この展覧会で器を鑑賞し、先人へ想いを馳せることが出来たのは戸栗さんの想いのお陰です。
何かを捨ててしまうことは簡単ですが、私も大切に思うことを大事にしていきたいと思います。
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